松江地方裁判所 昭和36年(レ)35号 判決 1962年10月16日
控訴人 中山静江
被控訴人 伊藤頼子
主文
原判決を取り消す。
被控訴人の訴を却下する。
訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
被控訴代理人は、その請求の原因として、
「被控訴人は控訴人に対して昭和三〇年四月衣類代金合計七二、五五〇円を代金同年五月末日支払の約で売り渡したが、控訴人は同年一二月末日までに数回にわたり合計二六、〇〇〇円を被控訴人に支払つただけで残代金四六、五五〇円の支払をしなかつた。
被控訴人は昭和三三年五月三一日右残代金債権を訴外勝部倉一に譲渡し、同日控訴人に対し内容証明郵便で右譲渡を通知したが、同通知は遅くとも同年六月二日までに控訴人に到達した。
右訴外人は右残代金債権につき控訴人を相手どり出雲簡易裁判所に給付訴訟を提起し勝訴の判決を受けたが、(同裁判所昭和三三年(ハ)第一〇九号譲受金請求事件)同判決に対し控訴人から控訴を提起されたところ、昭和三四年九月一一日訴の取下をするとともに、被控訴人に対し前記残代金債権を譲渡し、同日控訴人に対し内容証明郵便で右譲渡を通知したが、同通知は同月一二日控訴人に到達した。
よつて被控訴人は控訴人に対し残代金四六、五五〇円とこれに対する支払期限の翌日である昭和三〇年訴が一日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」と述べた。<立証省略>
控訴代理人は、答弁として、
「被控訴人主張事実中、被控訴人主張のとおり訴外勝部倉一から控訴人に対する訴の提起があり、控訴人が敗訴の判決を受けたが、その後同訴外人が右訴の取下をしたこと、被控訴人主張の時に同主張の各債権譲渡通知が控訴人に到達したことは、いずれも認めるが、その余の事実はすべて否認する。」と述べた。<立証省略>
理由
職権で調査するに、先に出雲簡易裁判所が訴外勝部倉一から控訴人に対する本件残代金債権の給付訴訟(同裁判所昭和三三年(ハ)第一〇九号譲受金請求事件)につき同訴外人の請求を認容する判決をなしたこと、しかるに右本案判決のあつた後に同訴外人が昭和三四年九月一一日訴を取り下げたこと、そして被控訴人は同日右訴外人から右残代金債権を譲り受けたとして本訴請求をなしていることは、被控訴人の自ら陳述するところである。ところで、民事訴訟法第二三七条第二項は、訴の取下の効果として、本案について終局判決のあつた後訴を取り下げた者は同一の訴を提起することができないこととしているのであるが、同法条により再訴の提起を禁止される者は訴の取下をした者のみでなく、その承継人もまた、再訴の提起を必要とするような特別の事情のない限り、これに含まれると解するのが相当である。本件についてみるに訴外勝部倉一の承継人であるという被控訴人について右のような特別の事情の存在を何ら認めることができないので、被控訴人の本訴請求は前示民事訴訟法第二三七条第二項の定める再訴の禁止に触れるものといわねばならない。そして、たとえ被控訴人が先に右訴外人に対して本件債権を譲渡した者であつて再び同訴外人からこれを取得した者であつても、右結論を異にするものではない。
従つて、本件訴は不適法として却下すべく、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は不当として取消を免れないから、民事訴訟法第三八六条、第九六条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 平井哲雄 平田孝 松信尚章)